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文人愛用味わい住所印ギャラリー・18 歌人・書家・美術史家 会津八一〔その4〕(全4回)



その1その2その3からのつづきです】



◇◇◇


ここに紹介する八一のこれらの手紙↓は、

正直いって僕はそれほど好きではありません。

ただ、実物をいくつか自分で求めて、

手にとってじっくり眺めてみたいと思ったので、

好き嫌いに関係無く、とにかく求めました。

あくまでもこれらの手紙に関しての感想であって、

八一の書簡を載せた書物上では、

好きな雰囲気のものがたくさんあります。


求めたものに関しては、万年筆の方の、書のリズムがいいと思います。


何はともあれ八一の遺品は市場価値が高く、ちょっと嫌になります。




 



八一筆の手紙






↑封書






八一は、現代は毛筆よりもペンのほうが主流なのだから、

ペンでも美的に書けるように工夫しなければならないとも言っていました。

これもやはり難しいことではあります。

時代背景としては、毛筆は隅っこに追いやられていると思いますが、

例えば、商店や飲食店の看板を考えたとき、

万年筆で書かかれた原版が拡大され、

掲げられることが主流になるでしょうか。

活字看板は今の趨勢ですが、毛筆で書かれた看板より、

万年筆などで書かれた看板が主流になることは、

今のところ考えられません。

毛筆の方がはるかに見栄えがするからです。




個人的には、万年筆よりも、大昔から存在する毛筆に、

筆記具としての大きな魅力をどうしても感じます。



さらに、万年筆よりも鉛筆の方がおもしろい、とも思います。



「今はボールペンや万年筆、シャーペンがあるのに、

なんで使い難い毛筆を使うんや?」という意見には、

なかなか賛同はできません。



毛筆のほうが反って使い易く便利という面が多々あるからです。




例えば、ざらざらした和紙や、キメの粗い紙には、

万年筆やボールペンよりも、毛筆の方がよほど適しています。


そんなざらざらした紙に万年筆を使うと、ペン先に紙が詰まり、

滑らかに書くことができません。



さらに、毛筆は、太い線や細い線を楽に出すことができる

潜在能力のきわめて高い便利な筆記具であり、

また、手に大きな負担をかけずに文字を書くことができます。


そして、変体仮名を書くという行為と違い、

今の文字を書いていれば、

毛筆という昔の筆記具で書いたからと言って読めないことはありません。



でも八一のいうように、

現代人なら、

ペンでも美的に書けるような工夫を

進歩的にしていかなければならないと思います。


大昔の人は、鉛筆や万年筆を見たことがなく、

使ったこともありませんので、

これらを使えるというのは現代人の特権でもありますね。





 


↑八一愛用の住所印
「秋草(艸)堂」は八一の斎号



八一は他にも以下↓のような住所印を愛用していました。



 






◇◇◇



そろそろまとめますが、

古いものを人一倍愛おしみつつ、

常に時代の先端に目を向けていた会津八一……、


彼が考えていたことは、現代人に本当に多くの示唆を与えています。




現代人なら、八一の感性を受け入れ、

それに負けずにさらにもう一歩先を見なければ、

その書はさもしいものになると思います。


300年、400年後ぐらいの書道用語辞典を見たときに、

「平成時代の書」の項目が、

「この時代は、言葉を無視した書・観者を無視した書を展覧会に出し、

曲芸のレベルを競い合う特異な時代であった」

というぐらいで片付けられないよう、

現代人は、柔軟で豊かな感性を以って、

今の時代を的確に反映する書を模索しなければならないと思います。





八一の歌碑などは、

昭和に書かれた文字としての現代的な特長を内包し、

将来も、昭和の時代を象徴する書として語り継がれていくと思います。



今は前衛書道という分野もありますが、

前衛書道がひとつの分野としてまとめられた時点、

つまり、皆が前衛書道と称していかにも

前衛の作品を書くようになった時点で、

そんなものはもうすでに前衛とは言えないと思います。

驚かれるのは最初に前衛を試みたその一人だけですね。

次にそれと似たものを書いても二番煎じに過ぎません。




はやくまとめなければならないのですが、

ここで少し、洋画家・熊谷守一の言葉を引きます(『へたも絵のうち』)。


 

 



絵の付き合い


 

二科会には、

若い友人に絵や彫刻を教える研究所というのがあって、

私は昭和三、四年ごろから十年間ぐらい

ここで絵を教えていました。

先に書いたように別に給料というものは

出ないのですが私にだけ車代と称して三十円をくれ、

それがわが家の家賃になりました。





書生さんは多いときは七、八十人はいたでしょうか。

毎週一回行って、

書生さんたちといっしょにデッサンなどをやるわけです。

ところが、研究所のキモいりの一人から、

ある日「お前がうまく教えないので、

いい絵かきが出ないじゃないか」

と文句をいわれたことがあります。

私はどういうはずみか、

とっさに「先生に教わるようなことで、

ロクな絵かきが出たためしがあるか」と、

タンカを切りました。





ふだんはなかなか、

こうはうまく言い返せないものですが、

このタンカだけは今思い出してもうれしくなるほど

上手に出ました。……





つまり、何か新しいものを追い求めるというのは、

孤独なことなのだと思います。

吉野秀雄が、八一筆の「孤高独秀」軸を得て、

「先生生涯の象徴にて、位牌の如きもの」と形容しましたが、

八一自身、自らの考えを貫き通すことは、

本当はものすごく辛く、しんどい挑戦だったのかもしれません。


八一のような、歴史に残る実のある面白い感性がうまれるには、

グループでの「仲良し小良しの協調性」とかは、

新しい芽を摘み取ってしまうきっかけになるのかもしれません。

先生が弟子の行く路を考え、

親切に弟子の考えの軌道を修正してあげたところで、

それが本当にいいことなのか、親切なことなのかどうか、

それは誰にもわかりません。

何となく正しいようなことを言われても、

結局、自分は自分でしかないので、

自分の頭で合点しなければどうにもなりません。


評価の高い論考の中にもものすごくトンマなところがあったり、

一般的に評価の低い論考の中にも、

びっくりするほど鋭いことがあったりするので、

一概に評価の高いものだけを後進に勧めることは、

よくない態度なのかもしれません。

ほんの少しの鋭い部分が、

そつのない優等生論考をはるかに凌駕することもあります。





◇◇◇




「今の時代を反映する書」の話題に戻しますが、

結局、文章でも文字でも、先ずは人が人に何かを伝達し、

書き手と受け手がきちんと向かい合う――「対面」という観点なくして、

いつの時代も成り立たないと思います。


すぐ隣にいる人を少しでも感動させることができないことには、

第三者に感動を与えることなんて到底できません。


「何か言いたいことがあるから書く」のであって、

「書くために何か適当な言葉をさがす」という態度は

やっぱりちょっとおかしいと思います。




何か作品を書くために、

体裁のよい言葉、さらに文字並びが面白そうな言葉

『墨塲必携』などから体よく拾い、

それを書くというのは、

言葉の性質から外れているのかもしれません。

もう少し解かりやすい例で言えば、

『手紙文例集』という種類の本がたくさんありますが、

このようなところに載っている文章は、

それらが、たとえ尤もらしい、

文法的に100点のものであっても、

実際に通行することのほぼない、

読んでいて恥ずかしい虚飾的なものが目立ちます。

普通、このような言葉を、

そのまま実生活の手紙に使うでしょうか?


言葉も生き物なので、優雅な言葉を使っていても、

それが今 今の風潮にそぐわないものならば・俗耳に入りにくいものならば、

浮いたものになってしまいます。





翻って、何か大昔の文人の漢詩なども、

現代の我々が上辺だけ簡単に真似して書くのは、

例えばジーパンをはいた人が時代劇のカツラを真面目にかぶって

外を歩くというような、

かなり恥ずかしくなる浮いた行為なのかもしれません。


手紙文例集をそのまま本当に写してしまったような、

心得の無い恥ずかしい言葉をもらうより、

文章が拙くても、ちょっと気が利いた、

自分で考えた内容の言葉をすこしでももらった方が嬉しいですよね。


かつての作家の「書簡集」を読んで、

『手紙文例集』のような虚飾的な恥ずかしさを感じることは

ほとんどありません。


これは、その時々で、その人が本当に感じたことを、

生きた言葉として、

ある人が相手に現実的に何かを伝えたからに他なりません。

虚構ではないんです。

 


空海・最澄の手紙(風信帖/久隔帖)など、

(古来中国でも)名筆の多くが「手紙」となっているのは、

その書が、

「当時の時間と空間の中で、必要なものとして」実際に人に運ばれ、

「何か生きた言葉を、無事相手に伝えた」という、

文字としての最低限の条件を、

きわめて自然な形でクリアしているからではないでしょうか。


若い武者小路実篤が、同輩の志賀直哉に宛てた葉書


何でもないように見えるこのような言葉・書も、

立派な“書”だと僕は思います。



字の巧拙なんていうものは、

書が、何か生きた言葉を実際に相手に伝える役目を果たした後、

はじめて俎上に載せる問題なのではないでしょうか。




 


↑八一筆の様字








八一筆の様字








八一筆の様字







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p.jpg


奈良公園飛火野の「鹿寄せ」
和玄メモ

 





◇◇◇




oh.jpg

落合秋艸堂跡(會津八一旧居跡)

新宿区指定文化財史跡

 所在地新宿区中落合二丁目十四番付近 

指定年月日 平成二十六年三月二十六日


 西武新宿線「下落合駅」より徒歩11,2分、

同「中井駅」より徒歩12,3分 

落合第一小学校のそば。
 

og.jpg

落合秋艸堂跡に咲く萩の花。艸+秋で萩。


of.jpg

 

 

 

 

***

 




pa.jpg


東京都練馬区「法融寺」

西武新宿線「上石神井駅」徒歩12 分ほど

會津八一墓所
(もう一箇所は新潟瑞光寺)

 

(実は、奈良唐招提寺の歌碑の下にも人知れず八一の遺骨が眠っているという)


pb.jpg


会津八一筆「法融寺」




pc.jpg


八一筆「信願道場」

法融寺境内




pd.jpg

会津八一歌碑
「むさしの の くさ に とばしる むらさめ の いや しくしく に くるる あき かな」 
 
法融寺境内




↓拡大
pe.jpg




aa会津八一法融寺練馬歌碑東.jpg

aa会津八一法融寺練馬歌碑拓.jpg
↑拓影



pf.jpg

八一のお墓
境内右奥あたり


 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

渾斎秋艸道人墓瑞光寺新潟越.jpg

新潟「瑞光寺」(新潟市中央区西堀通3番町)に建つ会津八一のお墓

 

「渾斎秋艸道人墓」

 

 

 

 

 

 

 

 

瑞光寺秋艸道人歌碑新潟会津.jpg

「新潟市瑞光寺会津八一歌碑」

(瑞光寺は会津八一墓所・新潟市中央区西堀通3番町・平成元年6月建立)

 

ふるさとの ふる江のやなぎ はがくれに 

ゆふべのふねの ものかしぐころ

(ふるさとの 古江の柳 葉がくれに 夕べの舟の もの炊ぐころ)

乙酉九月十日於清行庵秋艸道人録旧製一首

 

 

 

 

碑陰(碑の裏面)

「・・・この歌は 

昭和二十年乙酉九月十日 

養女キイ子供養のために 

中条町から 

瑞光寺に詣で 

帰路 

伊藤辰治氏の茶室 

清行庵で揮毫された 

大正のころの 

西堀の風情が

しのばれる・・・」

 

 

 



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◇◇◇







gp会津八一筆李白詩十二幅書.jpg






gq会津八一筆李白詩十二幅書.jpg






gr会津八一こひせん李白詩十.jpg





會津八一筆李白詩十二幅

昭和18年9月



◇◇◇


幽玄翁の思い出12【明治人】和玄メモ


戦時中の小学校習字教科書(明治時代のものも最後に少々)和玄メモ


考えないところを残す和玄メモ


書のオブジェ化和玄メモ


書の調べ和玄メモ


立体的な書線和玄メモ

 




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「花」は隷書では本来「芲」の形がベターですが、
現実の一般的な文字生活と、
はんことしての実用性・言葉のイメージを考慮し、
はんこのような字体にしています。
あらかじめご了承ください。
(上段右から三つ目の「花見月」のことです)




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和玄堂「月の異称篆ゴム印セット」は特製桐箱入り。


和玄堂







 





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ねいらくあん





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