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「大江健三郎氏の講演会」

龍谷大学法学部40周年記念講演

 6月2日に京都の龍谷大学で、大江健三郎氏による「私らはいまにとけ込んでいる未來を生きている」と題した講演会があり、聴きに行って来ました。これは龍谷大学法学部創設40周年を記念して開催されたものです。




 まず最初に大江健三郎氏は、小学校時代のユーモアある思い出話を用いて会場を和まされました。


 小学校の校長先生が、こんな田舎の学校であっても立派な「学庠がくしょう」(学校のこと)である、と黒板に書いて説明されたあと、
大江少年は何のことかハッキリとわからなかったので、学校にはノミがたくさんいて足がかゆいことだし、いっそう「庠」に2画加えて、「痒」(かゆい)として「学痒」としようとクラスメイトに冗談を言っていたところ、今まで一度も人を殴ったことがない先生に殴られたらしいです。

 そして家に帰った大江少年は、学問に造詣が深く字引をひくのが趣味の父親に「学庠がくしょう」の話をすると、「それは がくじょう とも読むんだよ」といわれます。

 それから60年経った今、
 
龍谷大学から講演会の依頼を受け、大学の歴史を見ると、かつて龍谷大学に「真宗学庠」という名前が付いていたと知り、大変感慨深かったと話されました。また、諸橋轍次(もろはしてつじ)の「大漢和辞典」で「庠」を調べると「じょう」という読み方もあって、父親の博学ぶりに改めて驚いたとおっしゃっていました。


 話はそれますが、諸橋轍次はこの大作「大漢和辞典」を作る時に、すさまじいエピソードを持った人です。長い月日を費やしてやっと完成させた原稿を、出版会社がいよいよ世に送る直前、東京大空襲の爆撃が全てを灰にしてしまいました。しかし彼は一念発起して一からまた書き進め、ついには前の原稿よりもはるかに多い原稿量を完成させました。



 本筋にもどりますが、この後大江氏は、教育基本法改定の話や、「共生」という考え方に触れられた後、

自身が書いた『沖縄ノート』(1970年、岩波新書)により名誉毀損で訴えられ、現在裁判の被告になっていることにも触れられました。これについては朝日新聞に大江氏が書かれている「定義集」(平成19年4月17日朝刊)に詳しく載っています。
当時は「共生」と共に「共死」という考えもあったようで、沖縄で430人もの人が自殺しました。


 そしてこの裁判に決着がつくまでは、高校の教科書検定が通らず、来年から具体的な勉強ができなくなってしまうようです。朝日新聞「定義集」で大江氏がいわれているように、日本語は文章から主語を隠し曖昧にしてしまうので、しっかりと注意しなければなりません。
 
朝日新聞「定義集」


 今はグローバル化が進み、前のITブームによって急に富豪が生まれる世の中になったけれども、今本当に求められてこれからも大切になる人間像は何か、という話の中で、氏は、「知識人」という言葉を取り上げられました。


 この「知識人」というのは、専門的な知識だけではなく、さまざまな学問分野の人々がお互いに話し合い、自分なりの言葉で、多くの人々にきちんと自身の思いを伝えていく、という人のこと。

 
 大江氏は今の若い人たちに自分の思いを強く伝えたいと思われていて、これから多くの人が自分なりの言葉で生き方の形を伝えていって欲しいと強く思われています。



 氏が描く「知識人」像のもっとも典型的なモデルといえる人が、大江氏の友人であったエドワード・W・サイードだったそうです。「アウトオブプレイス」という映画には、サイードの考えがうまく表現されているようです。


 社会の風潮により精神の自由が奪われたり、デリケートな教養がなくなっていったりしてしまうことはこわいこと。私達は、過去の文化が溶け込んでいる現在を生きていると同時に、今に溶け込んでいる未來をも生きていることを考えると、多くの人が大江氏の言われるような知識人となり、自分の思いを多くの人に伝えていかなければならないと思います。


◇◇◇


 最後の質問コーナーの返答の中で、書の考えにつながる感慨深い話を大江氏はされました。


 「小説はいつでも書けるので、無理に早くから書こうと思わずに、今は本を読んだり自分の考えを深めたりして、根を張っていってください。いつか自然と書きたくなる時がやってきます


 書をしている人にとっても、むやみに書き散らすのではなく、矢も盾もたまらず書きたくなった言葉を書いたとき、初めて人の心を打つのだと思います。自分自身が感動して書いていない作品に、人は感動しないと思います。
 















夕日


 





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